君の知らない空


綾瀬が顎で指示すると、厳つい男たちがアパートの階段を登っていく。彼の部屋は2階。インターホンを鳴らすこともドアをノックすることもなく、男たちはドアノブに手を掛けた。


思ったとおり、ドアには鍵が掛かっているようだ。すぐにひとりが屈み込んで何かし始めるが、ここからではよく見えない。


彼が部屋にいたら……と不安を堪えながらアパートの駐輪場を見たが、赤い自転車は見当たらない。彼は部屋にはいないのかもしれない。


僅かな安堵と共に部屋へと目を向けたら、男たちが部屋の中へと入っていく。どうやったのかは分からないが、鍵を開けたらしい。


その様子を白い車にもたれ掛かった綾瀬が、険しい表情で見上げている。桂一は少し離れたところで、先輩と一緒に心配そうに見つめている。


桂一は探すだけ、見つけたら社内の他の人に任せるだけ。今回もそうだったのだろうか。桂一は月見ヶ丘駅前にいたはずだが、ここまで移動してきたのだろうか。


部屋から男たちが飛び出してきた。ぴくりと綾瀬が顔を傾ける。


「居ないのか?」


綾瀬の呼び掛けに、男たちは黙って頷いた。綾瀬の表情が、みるみる強張っていく。不穏な空気を察したのか、桂一と先輩が顔を見合わせる。


「この住所に間違いないのか?」


きっと振り返った綾瀬に驚いて、二人の背筋が伸びた。


「はい、確かにここだと聞いたので……間違いないと思います」

「ここを教えた男はどこへ行った?」

「いや……分かりません」


おどおどしながら答える先輩を、綾瀬が見据えている。その間に、アパートから戻ってきた男たちが綾瀬の傍に歩み寄った。


「お前たちはここを見張っていろ」


綾瀬は言い残して車に乗り込んだ。男たちも後に続く。桂一と先輩が見守る中、二台の車は走り去った。



< 229 / 390 >

この作品をシェア

pagetop