君の知らない空


何をどこまで話していいものか。考えを巡らせる私に、オバチャンは鋭い視線を容赦なく突き立てる。

それよりも、オバチャンは美香のことをどこまで知っているんだろう。どこで情報を得たんだろう。

「知らないなら教えてあげる、あの子はこの会社を乗っ取るためのスパイとして入ってきたそうね。小さな会社だけど、T重工との取引がある主要部品メーカーだもの、乗っ取る価値はあるでしょうね」

いつにも増して怖い顔、低い声で山本さんが私に告げる。乗っ取りのことを知ってしまったんだ……驚きと落胆の入り混じった複雑な気分に、私は唇を噛んだ。

「以前、私たちが白木さんの彼氏を見たと言ったでしょう? どうやら、あの彼氏がややこしい会社を経営してて、この会社を乗っ取ろうとしているらしいわ」

野口さんが言うと、隣で山本さんが大きく頷く。

「カップルで会社の乗っ取りなんて大それたことするわよね、彼女も彼氏もこの辺りの人じゃないらしいんですって」

あれ? 情報が少し違ってるんですが……? 私の情報が間違ってるの?

「あの、どうしてそんな事を知ってるんですか? 誰かに聞いたんですか?」

口を挟んでいいものかと悩んだが、どうしても聞かずにはいられなかった。すると、オバチャンはずいっと会議テーブルから身を乗り出してくる。

「ここだけの話よ、課長が教えてくれたの。課長が白木さんの様子がおかしいからって、独自に調べて分かったことらしいわよ」

「課長も最近来た人なのに、よく気がついたわよね……言われてみたら、彼女って怪しい感じするもの」

オバチャンが顔を見合わせる。
でも私には、オバチャンの言ってることが信じられなかった。自分の見たことや聞いたことと違っていたから。
それをオバチャンに告げるべきなのかと頭の中でぐるぐる巡らせるが、答えは見つからない。




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