君の知らない空


ふと、野口さんが頬杖をついて首を傾げた。

「でも、あの火事がよく分からないのよね……火元は居酒屋でしょ? 出火は閉店後の3時ぐらいだから」

「そうなのよ、ただの火の不始末なのかしら? あの子の彼氏を狙ったんじゃなくて、彼の会社を狙ったのかしらね? 課長も言ってたし」

二人のオバチャンが頷き合う。何だか秘密を手にしたことで、さらに強さを増しているように思える。
疑っているのは火事と美香の関係? 美香と彼氏が会社を乗っ取ろうとしてることの方が、よっぽど衝撃的だと思うけど。

「あの……火事に巻き込まれなくてよかったですね。私は金曜日は仕事休んでたし、夜は家に居たから火事のことは何にも知らなくて土曜日の朝のニュースで知ったんですけど……」

「そんなことはどうでもいいの、課長はあなたが利用されようとしてるって言ってた。あの子に何か言われてない? 知ってることを全部教えてくれる?」

美香が私を利用だなんて、信じられないどころか笑い話にしか思えない。私の情報では、乗っ取ろうとしてるのは美香じゃない。むしろ課長の方なのだ。

「え? 利用って、そんなこと全然……課長の話って本当なんですか? 乗っ取りとか?」

しまった、私の言い方がまずかったかもしれない。一瞬にして、オバチャンの表情が強張った。

「なに? 高山さん、もしかして、あなたは疑ってるの? 課長を? 私たちを?」

「本当に失礼ね、あなたが巻き込まれるのが可哀想だから言ってあげてるのよ? あなたも会社が乗っ取られたら困るでしょう?」

思いっきり身を乗り出して、オバチャンが迫ってくる。威圧感がたまらない。口調も顔も怖すぎる。まるで私が悪いみたいにそんなに責めないでってば……情けないことに、私は半泣きだった。


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