君の知らない空


「いや、そうじゃなくて……あ、会社が乗っ取られたら、どうなるんですか? 私たち、クビですか?」

状況を回避しようと、とっさに出た言葉だった。オバチャンが口を開けたまま、目を丸くしてる。

「会社が乗っ取られたら?」

「どうなるのかしら……ね?」

どうやら、そこまで気にしてなかったらしい。オバチャンにとって、美香のことと秘密の方が重要だったようだ。

「私たち、クビですか?」

「それは……どうなのかしら? 課長は何にも言ってなかったけど……」

「そうね、ほとんど彼女のことしか話してなかったわね?」

オバチャンはきょとんとして顔を見合わせている。そこまで美香のことを敵にしていたとは……呆れて何も言えない。

「白木さんのこと、乗っ取りに気づいてるのは課長だけなんですか?」

と尋ねたら、ドアをノックする音。オバチャンは私の問いに答えることなく、開いたドアの方へと振り返った。

「いらっしゃい、待ってたのよ」

声色を変えた山本さんの視線の先には、何事かと言いたげに顔を引きつらせた江藤がいた。オバチャンは江藤も呼び出したのか……どういうつもりだろう。

「遅くなってすみません。打合せが長引いて……」

「いいのよ、大事な仕事の方を優先しなくちゃ。さあ、座って」

ぺこりと謝る江藤に見せる山本さんの笑顔は、私や優美には見せてくれたことのないような優しい顔だった。さすが、お気に入りの江藤には態度が違う。

「それで、話しって何ですか?」

椅子に腰を下ろしながら問いかける江藤と目が合った。クスッと笑いそうに見せかけて、苦笑い。ちゃっかりオバチャンの視線を避けながら。全く要領のいい男だ。

「さっき高山さんにも話したんだけどね、白木さんのこと……」

オバチャンは、さっき私に話したのと同じ内容を話し始めた。




< 240 / 390 >

この作品をシェア

pagetop