君の知らない空
「いや、そうじゃなくて……あ、会社が乗っ取られたら、どうなるんですか? 私たち、クビですか?」
状況を回避しようと、とっさに出た言葉だった。オバチャンが口を開けたまま、目を丸くしてる。
「会社が乗っ取られたら?」
「どうなるのかしら……ね?」
どうやら、そこまで気にしてなかったらしい。オバチャンにとって、美香のことと秘密の方が重要だったようだ。
「私たち、クビですか?」
「それは……どうなのかしら? 課長は何にも言ってなかったけど……」
「そうね、ほとんど彼女のことしか話してなかったわね?」
オバチャンはきょとんとして顔を見合わせている。そこまで美香のことを敵にしていたとは……呆れて何も言えない。
「白木さんのこと、乗っ取りに気づいてるのは課長だけなんですか?」
と尋ねたら、ドアをノックする音。オバチャンは私の問いに答えることなく、開いたドアの方へと振り返った。
「いらっしゃい、待ってたのよ」
声色を変えた山本さんの視線の先には、何事かと言いたげに顔を引きつらせた江藤がいた。オバチャンは江藤も呼び出したのか……どういうつもりだろう。
「遅くなってすみません。打合せが長引いて……」
「いいのよ、大事な仕事の方を優先しなくちゃ。さあ、座って」
ぺこりと謝る江藤に見せる山本さんの笑顔は、私や優美には見せてくれたことのないような優しい顔だった。さすが、お気に入りの江藤には態度が違う。
「それで、話しって何ですか?」
椅子に腰を下ろしながら問いかける江藤と目が合った。クスッと笑いそうに見せかけて、苦笑い。ちゃっかりオバチャンの視線を避けながら。全く要領のいい男だ。
「さっき高山さんにも話したんだけどね、白木さんのこと……」
オバチャンは、さっき私に話したのと同じ内容を話し始めた。