君の知らない空
オバチャンの話を黙って聞き終えた江藤は、机に肘をついて小さく息を吐いた。
「お二人は、課長から聞いたことを信じているというんですね? 白木さんの彼氏が会社を乗っ取ろうしていて、彼女はその手助けをしていると?」
「信じないわけないでしょう? 言われてみれば、あの子には怪しいと思えるところがあるもの」
「そうよ、あなたが襲われたのも彼女が関わっているに違いないんだから」
感情を高ぶらせるオバチャンを前に、江藤は首を傾げて何やら考えている。
江藤は何を言い出すのだろう。江藤は、オバチャンが美香の彼氏だと言ってる人が兄だと知っているはずだ。それを言い出すのだろうかもしれない。土曜日に美香と二人きりで会うと言っていたが、何か分かったのだろうか。
「白木さん、だけでしょうか?」
江藤がぼそっと言った。
「え?」
オバチャン二人の声がハモった。それは聞き漏らしそうな小さな声に対してなのか、意外な言葉に対してなのか。
江藤はいつになく真面目な顔でオバチャンを見ている。こんな時だけど、やっぱり男前だと思ってしまうほど。
「この会社で怪しいと思える人は、本当に白木さんだけと思います? 僕には、もっと怪しい人がいるように思えるんですけど……ねえ、高山さん?」
ふいに振り返った江藤が、私に向けてニヤッと笑う。瞬時にオバチャンの視線が、私に突き刺さる。
ちょっと待って?
「高山さん? あなたも何か企んでるの?」
山本さんが声を裏返らせて迫る。思わず私は両手を上げて、椅子を後ろに引いた。
「は? 私? 何にも知りませんって」
「嘘つかないで白状しなさい! 知ってること吐きなさいって言ったでしょ?」
「あなたも白木さんとグルなの?」
オバチャンに責め立てられる私を見て、江藤がニヤニヤしてる。
もう、やめてよ。
そんな訳ないじゃん。