君の知らない空


オバチャンは会議室を出て行った。お気に入りの江藤に上手く乗せられていると、知ってか知らずか。
でも感謝せねば。私だけなら、オバチャンを交わせずにいたかもしれないのだから。

「ありがとう、うまく交わしたね」

「まあね、オバチャン恐るべしだなぁ……課長はいったい何考えてんだろ?」

江藤は澄ました顔で、椅子の背もたれに体を預けた。口を尖らせて天井を仰ぐと、再び表情を強張らせる。オバチャンは追っ払っても、何も終わっていないのだと実感する。

「おかげで課長が一番怪しい人に浮上したよ。とりあえず、オバチャンの調査結果を待ってみよっか」

「そうだな、きっと課長だけじゃないんだろうなぁ……ある意味、結果を知るのが怖いよ。この会社どうなるんだろ、俺らが救っちゃう?」

不安を表に出さないようにと気遣う江藤の笑顔。本当に私たちが会社を救うことができるのか。

「そういえば土曜日、デートの約束だったんでしょ? どうだった?」

ふと美香のことを思い出して問うと、江藤は髪をくしゃっと掻き上げた。笑顔を保っているが、辛そうな色は隠せない。

「それがさ、急用が出来たからって会えなかったんだよ。今日も休みだろ……なんだろうなぁ、俺、ついてないわ」

さっきオバチャンが話してた火事のことは口にしない。美香や美香の兄が、火事に何かしら関わっているかもしれない事を避けるかのように思えた。

だって、私も信じたくない。

「美香、何か言ってなかった?」

「ああ、特に何も……ゴメンなさい、また食事行こうって。それだけだよ」

「それだけ……かぁ」

美香は江藤には、まだ何も話していないんだ。話す気がないのか、話せないのか……美香から聞き出すのが一番手っ取り早いんだけど、難しいかもしれない。


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