君の知らない空



「詳しい事情は知りませんが、兄は自分の母は父に殺されたんだと言っていました。兄と父はほとんど会話もなくて……本当は私も一緒に家を出ようと言われたんですが、私には勇気がなくて残ることにしたんです」


と言うと、美香は再び目を伏せた。
兄は母の死や再婚など、複雑な環境の変化について行けずに家出したようだ。ちょうど反抗期と重なったのかもしれない。


「お母さんは美香ちゃんと家に残ってたのなら、お父さんのことを知っているんじゃないの?」


胸で疼く疑問に耐えきれずに問うと、美香は大きく首を振った。


「私の母は、兄が出ていく前に離婚して家を出ました。私も最初は母と一緒に家を出たんですが、父に連れ戻されたんです。その事でさらに、兄は父に対する恨みを口にするようになりました」


美香の兄が、父親を恨んでいるのは事実らしい。

ということは、
まさか美香の兄が父親を?

いや、病院で父の行方を菅野に問い詰めていたから違うだろう。

でも父親までが、兄の命を狙っているというは納得出来ない。


「お母さんとは会ってないの? 会えなくても、聞いてみることぐらいはできないの?」

「少し前に話したんですが、父のことは知らないと言ってました。それに、父とは関わりたくないみたいで……」


離婚の理由にもよるだろうが、よほど円満な離婚でない限りは別れた後で会うなんてことはないのだろう。

兄が怒っているというのだから、美香の母と父が別れた理由も何らかのトラブルがあったのだろう。今は、そこに触れるべきではないのかもしれない。


疑問が解消していくように思えて、さらに謎が増えていく気がする。



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