君の知らない空
#7 暗闇の中へ

◇ 引き返せないなら



食事を終えた後、美香の車で夕霧駅前まで送ってもらった。別れ際に美香の見せてくれた笑顔は、どこか凛としていた。


駅前のロータリーを出て行く美香の車を見送って、私は駅を離れて高架下へと歩き始めた。


あの日と同じ午後10時、美香と食事をした帰り。思い出したくないのに、ここでひったくり未遂に遭ったことが蘇る。


私も美香の仲間だと思われて、狙われているのかもしれない。悪い予感が、次々と溢れて膨らんでいく。


薄暗い街灯の下、足を止めてぐるりと辺りを見回した。誰もいないのに誰かに見られているような気がして、再び速度を上げて歩き出す。


ぼんやりとした視界に足音が響く。何かに追われるような錯覚に、恐怖が増していく。


高架の出口に、ふらりと人影が映った。
あの日と同じ、二人の影がゆっくりとこちらへと向かってくる。


まさかまさか……


思わず立ち止まった。
とっさに壁際に並んだ自転車の隙間に、バッグを抱えて身を屈める。


徐々に近づいてくる足音に混じった話し声。どうやら男女の会話のようだ。


息を潜めて顔を上げたら、目の前を若い男女が寄り添いながら通り過ぎていく。


全身の力が一気に抜けていく。


思い過ごしだったんだ……


男女が高架下を抜けた頃、そっと立ち上がった。


すると突然、車が急ブレーキをかける音と何かにぶつかったような音が耳に飛び込んだ。


男女がやって来た方向にある交差点からだ。








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