君の知らない空
◇ そばに居させて
おぼろげな意識の向こう側から、微かな声が聴こえてくる。
ともすると風が窓を叩く音のようにも思える、低い男性の声。どこかで聴いたことがある。
確かめたいのに、瞼が重くて開かない。声のする方へ意識を集中することができず、再び眠りに落ちそうになる。睡魔に抑え込まれるように、体に力が入らない。
僅かに開いた視界は暗く、閉め切られたカーテン越しに差す光が窓の輪郭を露わにしている。ぼんやりと浮かび上がった小さな部屋の中、私はベッドの上にいる。
朝の日差し……
ここは?
枕元に手を伸ばした。いつもの自分のベッドなら、置いてあるはずの携帯電話がない。唯一触れることのできた枕の感触が、自分のものとは違う。
ここは、
彼の連れてきた部屋。
気づいた瞬間、昨夜の出来事がフラッシュバックした。記憶を手繰り寄せるまでもなく。
混沌としていた意識が一気に覚めて、飛び起きた。カーテン越しの淡い光を頼りに見回したら、やはり知らない部屋。殺風景な部屋には、腰ほどの高さのチェストと私が寝てたベッドだけ。
軽い肌触りの掛け布団から抜け出そうとして、さらに驚いた。
私の着てる服……
明らかに男性モノのシャツ。
まさか……?
恐る恐るシャツの下を覗いた。
よかった……
私のキャミソール、ブラも付けてるし、ちゃんとスカートも履いてる。
いや、
どうしてキャミソールなの?
私のブラウスはどこ?
大袈裟なほど勢いよく、カーテンを開け放った。
ぱっと白く染まる部屋。
眩しくて目を細めたら、ゆっくりと扉が開いた。