君の知らない空


周さんの作ったという朝食は意外と美味しくて、あっという間に完食してしまった。よくよく考えたら、警戒心の欠片もない。


「ごちそうさまでした。美味しかった、ありがとうございます」

「どういたしまして」


周さんはにこっと笑ってくれた。どうして、こんなに優しくしてくれるんだろう。この前会った時は、近づくなとか言ってたのに。


私が食べてる間、彼はずっと黙って隣に座ってる。傷が痛むのだろうか、大丈夫か聞きたいけど、聞ける雰囲気ではない。いかにも聞いてくれるなと言いたそうに、ぼんやりしてる。


私の食べ終えた食器を下げてく周さんを目で追ったら、壁に掛けられた時計に気づいた。


「ええっ! 10時過ぎてる!」


一瞬、頭の中が真っ白になった。思いっきり平日なのに、仕事は休みじゃないのに、これじゃあ遅刻……


「安心しろ、職場には今日一日、休暇の連絡をしておいた」


周さんが、泣きそうな私を振り返る。意味がわからない。


周さんが?
職場に電話してくれたの?
何と言ったんだろう?
そんなことより、


「連絡? どうして職場の連絡先を知ってるんですか?」


疑問に思って聞き返した。
周さんが私の職場を知っているなんて、おかしい。もしかして……


「知り合いに頼んだ。高山橙子は寝坊のため休みますって」


「ちょっと、寝坊なんて言ったんですか?」


「それは冗談、体調不良ということにした。本当は寝坊には違いないけどな」


周さんが意地悪な笑みを見せると、彼がくすっと笑う。何なの、この人たちは……っていうか、


「知り合いって、誰ですか?」


危うく聞き漏らしそうになってたけど、思い出して尋ねた。



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