君の知らない空
「ごめん……アイツ、気が短いからあんな言い方するけど、本当は優しいんだ」
ぽつりと彼が言った。
周さんとは対象的に、穏やかな口調を保ったまま。周さんよりも彼の方がよっぽど優しいに違いないと、改めて思う。
私を見て、にこりと微笑んでくれる彼に胸がきゅんとする。周さんに睨まれたことなんか、あっという間に忘れられそうだ。
「ありがとうございます。周さんって、日本語が上手なんですね」
「舜は、ココに来て長いからね」
さらりと答えてくれたけど、彼はどうなんだろう?
彼には小川亮という名前の他にも、名前を持っているんじゃないか。以前、桂一の持っていた写真に書かれていた『杜亮輝』という名前を。
尋ねたくて、うずうずするけど怖くて聞けない。
「僕ももっと上手くならなくちゃね」
と言って、彼はカップを口に運んだ。
目を細める彼の横顔に見惚れてしまう。彼の向こうに見える窓の外は、眩しいほどの光に満ち溢れている。ふわりと揺らめく彼の髪に触れたい衝動を、ぐっと抑え込んだ。
ずっと、このままで居られたらいいのに。
今にも言い出しそうなのに言えない思いが、いつまでも胸の中でくすぶっていた。