君の知らない空
職場に強烈なオバチャンが居ること、美香がオバチャンに目を付けられて辛い立場にあることを手短に話した。
黙って聞いてる彼の表情が、驚きから次第に険しく変化していく。話している内容は別にして、彼の表情の変化を見ていると不思議と面白く感じられた。
「いろんな人がいるんだ、辛そうだね」
話を聞き終えた彼は、眉間にしわを寄せて深刻な顔をしていた。私の職場に恐怖でも感じたのだろうか。どろどろとした職場に、嫌悪感さえ抱いただろう。
彼はここに来る前は何をしてたんだろう。無性に知りたくなってくる。
幸い、この部屋には私たちだけ。二人でいられることは、絶好のチャンスだ。だって周さんはいないから、何を聞いても邪魔をされることもない。
「小川さんの仕事って、何ですか? 何の仕事をしてるんですか?」
急かされるようにストレートに聞いたら、彼は即苦笑いした。いきなりこんな質問はまずかったかな?と思っていると、
「とくに何もしてない……無職? かな?」
とさらりと答える。
やっぱり……と思ったけど、そのまま鵜呑みにしてしまったら会話が途切れてしまう。なんとか繋ぎ止めたくて、すぐに聞き返す。
「あの、さっき話してくれた、美香に頼まれて……っていうのは、仕事じゃないんですよね?」
美香の父親か菅野に雇われていることを仕事だと彼が認識していないのなら、彼はそういう仕事を専門的にしている人ではないと思う。信じたいあまり、私は勝手に決めつけようとしていた。
彼は赤らさまに困った顔をするけど、周さんみたいに睨んだりしない。彼の表情が解けていく。