君の知らない空
しばらく首を傾げていた彼は、
「あれも仕事になるのかな?」
と、逆に私に問い掛ける。そんなこと聞かれても、どう返したらいいのかわからなくなる。
まさかストレートに、
『美香のお兄さんを狙ってるの?』
なんて聞きたくても聞けるはずもない。
「お金とか、貰ってるんですか? 貰ってしてる事なら仕事になるのかもしれないけど……」
なんて曖昧な答えを返す。
私って、ホントいい加減だと後悔し始めてると、彼が顎に手を掛けて考えるポーズをした。
「じゃあ、仕事かもしれない」
ぽつり言った彼は、難問を解けた瞬間のようにすっきりした顔をしている。
話してる内容とちぐはぐな感覚に違和感を覚えつつも、私は以前、市民病院で聞いたことを思い出した。
美香の父親が菅野に依頼して彼らを雇ったのだと。彼はそういう専門職ではなくて、単にお金で雇われてるだけ?
遮られるものがなくなった私は、疑問を口に出さずにはいられなくなっていた。
「もしかして、美香のお父さんからの依頼ですか? 今はお父さんが行方不明だから、代わりに美香からの依頼を請けてるんですか? お父さんを探さなくてもいいんですか?」
つい早口で問いかけた。
彼はとくに驚いた様子もなく、落ち着いた表情で聞いている。
「違う、僕は彼女のお父さんに雇われたんじゃない」
「え?」
思わず聞き返した。
頭の中で組み上げていたモノの一部が揺らいで崩れるのを、慌てて受け止めるような感覚。何とか受け止めた欠片を、もう一度組み上げようとするけど、うまく組み合わせられない。
話が違う。
どう聞き返そうかと必死で言葉を探すけど、どれも言葉にならずにすり抜けていく。