君の知らない空
言葉を失った私を見つめる彼の目は、とても冷たく感じた。もう少しで手が届きそうだったところを、急に突き放されたような感覚。
「彼女のお父さんは行方不明なんかじゃない。それは彼女が言ったの?」
彼が首を傾げる。嘘を言ってるようには見えないけど、どういうこと?
「そうだけど…… 美香は、お父さんは半年ほど前に行方がわからなくなった、って私に言ったの……昨日の夜、私に話してくれたばかりなのに……」
話が違う。うまく言葉が出てこなくて唇だけが震える。
美香の真意がわからない。
私は騙されていたの?
どうして騙す必要があるの?
こみ上げてくるのは怒りではなく失望。
動揺する私を気遣う彼の視線は至って優しい。きっと何と言葉をかけようかと選んでいるんだろう。考え込むように、ゆっくりと部屋の中を視線を向ける。
「美香は、どうしてお父さんが行方不明だなんて言ったのか、何か知りませんか? 小川さんは美香に何を頼まれてるんですか? 美香は何をしようとしているんですか?」
ようやく出た言葉は整理できないままで、おかしな言い方になったように思える。
だけど、彼は平静とした表情をしてる。おおかた予想していた問いだったのかもしれない。
強張っていた彼の表情が僅かに和らいで、私の目を見据える。
ぞくっとした。穏やかに見える瞳の奥に何か潜んでるみたいで。
「彼女に頼まれたのは、一番に彼女のお兄さんを守ること、昨日の課長さんのことそれから……君を守ること」
穏やかな声が告げたのは意外な内容。予想しなかった答えに、私の気持ちが再び動揺し始める。
美香のお兄さん、綾瀬を守るのは納得できる。でも、私を守るって何?