君の知らない空
柔らかな笑顔とは似つかわしくない、がっしりした逞しい腕。ぐっと力が込められて、私を支えている。
幾度と私を助けてくれたこの腕を怖いなんて思わない。
むしろ、この腕がなければ。
彼がいなければ、私は……
「お願い、やめて……こんなのやめて、自分のことを考えてよ」
気づいたら、彼にしがみついていた。
見上げた彼は穏やかな目をしてる。私の言葉をどんな風に受け止めているんだろう。
決して、軽い気持ちで言ってるんじゃない。どうか、彼に伝えたい。
「危ないことだってわかっているのなら、もうやめて。私から美香にも頼んでみるから、お兄さんのことも……だから、そんな仕事やめてよ、お願い……」
必死になってた。
何とか彼にわかってもらいたい一心で。
目頭が熱くなるけど、絶対に涙なんて流すものか。ぐっと唇を噛んで堪える。
すがり付く私の肩に、彼の手が触れた。
「ありがとう、僕のことなんか気にしてくれて」
彼が見せてくれた最上の笑みに、堪えていた私の涙腺が緩んだ。滴はするりと頬を流れ落ちて、膝の上に弾けて消えていく。
「違う、そんな言い方しないで、気にしてるだけじゃない、私はただ……あなたに無事でいてほしい、それしか考えられない、小川さんのことが好きだから」
しんとした部屋に、私の胸の鼓動が響いた気がした。
私の気持ちに偽りはない。
彼に生きていてほしい。
それだけは自信を持って言えること。
はっきりと伝えてしまったことに対する後悔はない。
彼の腕が、私を包み込んだ。