君の知らない空


「ありがとう、そんなこと言われたの初めてだから、何て返したらいいのかわからないよ」


すぐ耳元から聴こえてくる彼の声は穏やかで、ふわりと私を包み込む。彼の腕の力強さと温もりが、じわりと胸を締め付ける。


離さないで……


彼の背中に回した手に力を込めたら、彼が苦しげに息を吐く。
しまった、彼は怪我をしてるんだ。


「ごめんなさい……」


慌てて離れようとしたのに、彼はさらに腕に力を込めた。


「大丈夫、離れないで」

「ごめんなさい、痛くない?」

「うん、温かいから……」


温もりとともに込み上げてくる安心感。


優しい日差しに満ちた部屋の中で、唯一待ち望んでいた時間。
昨日の恐怖の中で感じていたよりも、彼の腕の中は柔らかくて温かい。


そっと彼が頬を摺り寄せる。互いの感触を確かめるように何度も。


彼の鼻先が耳に触れた途端、体の芯を弾かれるような感覚が走る。彼の背中に回した手が、シャツをくしゃりと掴んだ。


彼の唇が耳の輪郭をなぞってく。
ゆっくりと優しく。


思わず息が漏れて顔を反らすと、彼が首筋に顔を埋めていく。


「んっ……」


びくんと体が跳ねた。


丁寧に滑らされる唇が、私の身体から力を奪ってく。彼の吐息が触れるたび、電流が走るように身体が震える。

   

このままでいたい……


切に願った。



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