君の知らない空
決して力ずくではない優しさで、彼が私を支えてくれている。
時々傷が痛むのか、彼が苦しげに息を吐く。そのたびに意識を引き戻されるけど、すぐにまた彼の温もりの中に飲まれていく。
そっと押し開いた唇から滑り込む感触。舌を絡ませる彼の腕の中で、私は蕩けていく。いつしか指先が震えて、彼のシャツを掴むこともできない。
体が宙に浮く感覚。
ドアの開く音。
ぼんやりとした視界に映る天井。
私が目覚めた部屋へと入っていく。
ベッドに横たえられた私を、優しい目で彼が見つめてる。
私は、静かに目を閉じた。
覆いかぶさる彼の重みと温もりが、ゆっくりと私を溶かしていく。触れ合う肌から確かに伝わる鼓動を感じながら、私は身体を震わせた。
やがて微睡みの中にいた私は、彼の名を呼んだ。縋ろうと伸ばした手を彼が握って、頬を愛撫してくれる。
「ありがとう」
柔らかな声に目を開けると、淡い光の中で彼が微笑んでいる。
夢じゃない。
涙が出そうになる。
すぐ傍に彼がいてくれることが、こんなにも嬉しいなんて。
私の髪を撫でながら、彼が何度も唇を重ねてくれる。
ふと、彼が動きを止めた。
彼が何かに耳を傾けていることに気づいたのは、しばらく経ってからだった。
さっき居た隣の部屋から、規則正しい振動が聴こえてくる。
彼はもう一度唇を重ねて、ゆっくりと体を起こした。