君の知らない空
「橙子? おい、橙子?」
不意に呼ばれて振り向くと、桂一がきょとんとした顔で私を見つめている。
どうやら、
私は思い出の中に逃避していたらしい。
既に車は、職場から数十メートル手前の路肩に停まっている。
「疲れてんのか? あんまり無理すんなよ、仕事より体の方が大事だぞ」
私を心配してくれる桂一の声は優しくて、胸が大きく揺らいで傾きそうになる。
「うん、大丈夫」
揺らぐ気持ちを悟られないように、私はそそくさと荷物を抱えた。