君の知らない空
    

「だから、それは違うって言ったでしょう?  まだ疑ってるの?」


おばさんが呆れたように笑う。つられたように彼も笑い出す。


まだ、じゃない。
ずっと疑わしいんだ。


「本当に、アキさんは僕の母じゃないから信じてよ。アキさん、何か疑われるようなことしたんだろ?」


ちらりと彼が視線を送ると、おばさんは肩を竦めた。しまったと言いたげな仕草が、さらに怪しさを醸し出してる。


全く信用していないという訳ではないけど、市民病院でおばさんに聞いた話と彼に聞いた話には確かにズレがある。


いつ聞いてみようかと思いながらも、なかなか切り出せない理由は目の前にいる彼の存在。


おばさんが彼のことを殺し屋だと言ってたなんて、さすがに言いにくい。


あの時のおばさんの話しぶりは、まるで彼を全く知らない人のようだったのに本当は母親代わりだなんて。故意に私を騙していたとしか考えられない。


ここに来てからずっと、おばさんが私のことを『ハルミちゃん』と呼んでいることも気になってる。でも彼は、名前が違うことに疑問を感じていないようだ。きっと私がおばさんと会ったことを知っているからだろう。


でも、おばさんが市民病院で助けてくれたのは本当に偶然?


「おばさん、もう体は大丈夫なんですか?」

「ありがとう、もうすっかり良くなったのよ、やっぱり病院は退屈よね」


やましい事なんて全くないと言わんばかりに、おばさんが笑顔で返す。


「あの時、病室で話してくれたこと、もう一度聞かせてもらってもいいですか?」

「え?  ああ……何を話したかしらねえ?」


引きつらせた顔を隠すように、おばさんが目を逸らす。とぼけるということは、やっぱり何か隠しているんだと私は確信した。


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