君の知らない空
   

でも、どうして私なんかを騙す必要があったの? と尋ねようとしたら、彼がにやっと笑った。


「アキさん?  もしかして、舜に頼まれたの?」

「え?  舜君?  いいえ、何にも頼まれてないわよ」


彼に顔を覗き込まれたおばさんは、しらばっくれてそっぽを向いた。


明らかに怪しすぎる行動だけど、これも演技なのかもしれない。でも、よくもこんな人に騙されたんだなぁ……と自分が恥ずかしくなる。


「どうして、私に嘘を教えたんですか?」

「ん?  そりゃあ、ハルミちゃんが知りたがってるからよ。だから舜君が、教えてあげたら?  って言ったのよ」


おばさんひ開き直ったみたいに、拗ねたみたいに返すけど答えになってない。


知りたがってるからって、どうして騙すの?


でも不思議なことに、怒りは込み上げてこない。逆に、ほっとしてるような気がする。


あの時、おばさんが彼は殺し屋だと言ったのことも嘘なのかもしれないのだから。


「周さんは、どうして私に嘘を教えるように頼んだんですか?  それまで私は、周さんに会ったことなかったのに」

「会ったことはなくても知ってたに決まってるでしょ?  だって、あの子も雇われてるんだから、ちゃんとあなたのことも調べてるわよ、ハルミちゃん」


やっぱり、おばさんは悪びれる様子もない。


「舜はお節介だからね」


何かを悟ったように呟いた彼が、頬杖をついてにこりと笑う。首を傾げると、おばさんがテーブルに身を乗り出した。


「そう、騙したのは舜君の優しさよ。あなたが必要以上に首を突っ込まないようにって」


優しさ?
私を騙したことが?


「優しさ……ね」


ぽつりと彼が言った。


< 304 / 390 >

この作品をシェア

pagetop