君の知らない空
なんだか、納得いかない。
苛立ち始める気持ちを抑えようとするけど、胸の中で膨張していくみたいで気持ち悪い。
「必要以上に……って、私は何にも知らなかったから……」
「だから、知ろうとしていたんでしょう? 病院で美香さんのお兄さんを追ってきたのは、知りたかったからでしょう? そういうのがいけないことなのよ」
言い訳する私を諭すように、おばさんはゆっくりとした口調で話してくれる。そのせいか、私はまるで叱られているような気分。
「でも、気になったから……」
「ハルミちゃん、どんなに気になっててもね、知らなくていいこともあるのよ。不必要に近づかなくていいことだってね」
強く言い切ったおばさんの顔からは、笑みが消えていた。
『近づかない方がいい』
足を挫いて彼に助けてもらった時、彼が言ったのと同じ言葉。
あの時、彼も突き放すような淡々とした口調だった。私に向けられた冷ややかな目から優しさは消えて、念を押すように強く言った彼の顔が思い出される。
おばさんの隣の彼を見たら、口を固く結んでテーブルの上にあるカラになった皿を見つめていた。
「それより、ハルミちゃん、足はもう治ったの?」
ころりと声色を変えて、おばさんが柔らかな笑みを浮かべた。
急に現実に引き戻された私が返事に困っていると、
「あんまりウロウロしてたら、また痛みがぶり返すわよ」
と付け加えた。
隣の彼も口元を綻ばせてる。
「亮君、あなたも、痛いんでしょう? 無理しないで寝ときなさいよ」
ぽんっとおばさんに背中を叩かれた彼は、歯を食い縛って苦笑いする。