君の知らない空
   

まるで本当の親子みたい……と思って見ていたら、おばさんが時計を見上げた。


「もうこんな時間、遅いお昼ご飯になったわね」


時計はもうすぐ4時になろうとしている。そんなに長居をしたわけじゃなくて、ここに来たのが遅かったんだ。


「ごちそうさま、美味しかった。じゃあ、行こうか」


と言って、彼がすくっと立ち上がる。私も立ち上がり、おばさんに頭を下げた。


「ごちそうさまでした、本当に美味しかったです」

「また、いつでも来なさいね。ただし、余計な詮索はしないこと。ハルミちゃん、わかった?」


念を押す言葉が少し怖いけど、おばさんの笑顔には愛嬌がある。人懐こい雰囲気が安心感を与えてくれている。


「知ってると思うんですけど、私の名前、ハルミじゃなくて橙子なんです。高山橙子って言うんです」

「知ってるわよ、ハルミちゃんの方が呼びやすいのよ、あなただって、いい返事してるじゃないの」


おばさんはにこにこ笑ってるばかりで、引き下がりそうにない。頑固なんだなぁ。


「じゃあ、ハルミちゃんでもいいです。おばさん限定ですよ」

「ありがとう、ハルミちゃん、今日は私のご馳走にしておくわ」

おばさんの隣で、彼が店の扉を振り返る。ただならぬ気配を察したのかと耳を澄ましてみる。
駆けてくる複数の足音。


「来たわね」


おばさんが言うのと同時に、扉が勢いよく開いた。


「おばちゃん、ただいま! お腹空いたぁ」


威勢のいい声。近くの高校生の男の子が三人、店内になだれ込む。


ただ圧倒される私の手を引いて、彼がおばさんにひらりと手を振る。おばさんが手を挙げるのを見届けて、私たちは店を出た。


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