君の知らない空

◇ 泡沫の恋人




平日の夕方のショッピングモールは、やはり学生が多い。1階のフードコートには、高校生らのグループが点々と間隔を開けてテーブルを占拠している。あちこちから、賑やかなお喋りや笑い声が溢れている。


私にもあんな頃があったと懐かしさを感じながら、彼と並んで歩いていた。
彼はどんな高校生だったんだろう。そもそも高校生の頃は、ここにいなかったんじゃないか。


何か聞きたい。
でも、何から聞いたらいいのかわからない。そもそも聞いてもいいのか……と考えながら会話の盛り上がるテーブルを通り過ぎていく。


ふいに彼が足を止めた。


「知ってる人?」


とんっと肩を叩かれて振り向いたら、アイスクリーム屋さんの店先から手を振っているのは知花さん。


「うん、先輩なんだ。学生の頃、あのアイスクリーム屋さんでバイトしてたから」


手を振って返しながら、店先の知花さんへと駆け寄る。


「知花さん、久しぶりです。体調はどうですか?」

「橙子ちゃん、ありがとう、すこぶる順調……本当に元気だよ」


と言って、知花さんがお腹を撫でて見せる。まだまだ見た目には膨らんでいないからわからないけど、あそこに赤ちゃんがいる神秘に胸がぞわぞわする。


「こんな時間にうろうろしてるってことは、今日は仕事お休み? 早退した?」

「あ、休みなんです。ちょっと用事があったから……」

「そうなんだ、用事じゃないと休めないよね」


にこにこ笑ってた知花さんの視線が、いつの間にか私の後ろに向けられてる。今にも何か言い出しそうに、口元を震わせて。


誰?
って、知花さんの目が訴えてる。


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