君の知らない空
ショッピングモールを出て、見上げた空にはひとつふたつ明るい星が輝いている。
ゆっくりと霞駅へと歩き始めた最初の信号待ち、
「少し待ってて」
と彼が言った。
私から少し離れた歩道沿いの自販機の陰で、誰かに電話を掛けてる。一度切って、もう一度。二人に掛けたのか、同じ相手に二回掛けたのかはわからない。
あっという間に電話を終えた彼は、信号が青に変わる前に戻ってきて、
「ごめん、お待たせ」
と私の手を握り締めた。
霞駅へと向かって歩き出す。
近づく別れが現実味を帯びてきて、話すことが辛くなってくる。やがて私は、噤んだ口を開くことができなくなっていた。
固く閉ざした私に、彼が優しく声を掛けてくれる。
「ありがとう、今日は楽しかった」
「私こそ、ありがとう。こんなにも亮と一緒にいられるなんて、本当に嬉しかった」
繋いだ手から、腕を絡ませて彼にしがみついた。温もりとともに滲んでくる安心感が、寂しさを拭ってくれる。
彼の足取りが少し速くなったような気がするのは、私の足が疼き始めてるせいだろうか。今日は少し歩き過ぎたのかもしれない。
霞駅はもう目の前に見えていた。歩く人の数も増えてきたけど、人目なんか気にするよりも彼と離れたくない気持ちの方が強い。
通勤客で混雑する駅が、私を現実に引き戻す。繋がってる彼の手を無理やりに引き離されるような感覚に、大きく首を振った。
彼の腕にしがみついて、ホームへと上がる。
そっと見渡して、そこに会社関係の人がいないか探してしまう。電車を待つ人の列の中、不安を掻き消すように彼がぎゅっと手を握り締めてくれてる。