君の知らない空



前方の信号機が赤に変わり、静かに車が止まった。


「お前のせいじゃない、亮が悪いんだ。気にするな」


周さんが振り向く。
相変わらずな無表情で『気にするな』なんて言われても、気にしないでいられるはずない。


確かにショッピングモールに行きたいと言ったのは亮だけど、周さんはそれを知っているみたいな口振り。


「亮さんは悪くない、私が連れて行ってもらったから……」

「もういい、亮が浅はかな考えでジムなんかに行くから見つかったんだ。そんな所に行くなと言ったのに、聞かなかったアイツが悪い」


亮を庇う私の言葉を遮った周さんは、前方の信号機を睨んだまま淡々と話す。私に言ってるようにも、自分に言い聞かせているようにも聞こえる。


でも、私にも責任はある。ジムで見つかったというのは私がお礼を言った時のことを指しているのだから。


「ごめんなさい、あの時、私が声を掛けなかったらよかったのかもしれない、何にも知らなくて」


罪悪感に押されて零れた言葉は、周さんの耳には届かなかったのだろうか。周さんからの返事はない。


信号機が青に変わり、車が走り出す。周さんがまたひとつ、大きな溜め息を吐いた。


「謝らなくていいって言ってるだろ、お前が悪いんじゃない。亮も悪いし、タイミングも悪かっただけだ」


面倒くさそうな無愛想な言い方だけど、一方的に責めようとしない。


同時に引っ掛かった言葉、『タイミング』って何だろう。


あの時、私が声を掛けた時に見張られてたのは偶然? 亮が追われることになったのも、霞駅に桂一が居たのも偶然?


もし誰かに見られたとしたら、ショッピングモールだろう。どこか隠れた場所から見張られていたのか、それとも私が亮に声を掛けたように誰かが……


ショッピングモールを出る前の記憶を遡る。


一番に浮かんだのは、コーヒー店を出たところで鉢合わせた沢村さん。


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