君の知らない空



沢村さんは、もちろん亮のことも知っている。私が亮のことを気にしてたことも知っていたから、住所を教えてくれたり協力してくれた。


それなのに亮と私が一緒にいることを追求せず、意外にもあっさりと去っていった。追求されても不思議じゃなかったと思うのに。


急ぎ足で去っていく沢村さんを見送る亮が、手を握り締めて微笑んでくれたの照れてたからじゃない。
『驚いた』と言ったのは、亮の本心だろう。


きっと亮は、沢村さんのことを知っていたんだ。沢村さんが、綾瀬の部下に伝えると。


「あの、もしかして……ショッピングモールに居るところを見てた誰かが、美香のお兄さんの部下に教えたんですか?」


恐る恐る尋ねた。
周さんは私を振り向くこともなく無反応で、悠々と運転してる。私の推理が間違っていたのかと、不安になってくる。


ふぅと俯いたら、周さんの声が降ってきた。力強いけど、やっぱり冷たい声。


「心当たりがあるのか?」

「はい、ジムのインストラクターの沢村さんっていう人に会ったんです。その後すぐにショッピングモールを出て、霞駅に向かって……追われてることに気づいたかも……」


心当たりも自信もあるのに、周さんの反応が恐い。緊張で声が上擦りそうになるのを抑えながら、ゆっくりとした口調で話した。


「よく気がついた、当たりだ」


見上げた周さんは、口元に緩やかな弧を描いてる。


「本当に?」


少しだけ嬉しくて聞き返したのに、周さんはすぐに口を結んでしまった。また気まずい空気に満たされるのか、と落胆しそうになる。


すると周さんが、


「綾瀬の部下が、あの沢村ってヤツに接触して住所を聞き出したらしい。金で釣られたんだろうな、だから火事の後、押し掛けてきた」


急にぺらぺらと話し出した。
そんなに話すと思わなかったから、こっちが呆気に取られてしまう。

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