君の知らない空


なるほど、火事の後に綾瀬と部下たちがアパートに押し掛けていたのは、沢村さんが住所を教えたからだったんだ。


でも、まだ信じられなかった。
沢村さんが亮のことを連絡したのだとしても、本当に悪い人だとは思えない。


あの時、私に亮の住所を教えてくれたのは単純な好意ではなかったのか。悪意があるようには、全く感じられなかった。私が鈍感だったのかもしれないけど。


「じゃあ、沢村さんは美香のお兄さんの部下とか……仲間ではないんですね? お金で釣られたというのは本当に? 脅されたとか……そういうこともあり得るんじゃないですか?」

「ああ、仲間ではないようだな。特に親密な関係者もいないから、金をチラつかせたら飛びついただけなんだろうな。単純なヤツだ」


どうして、そんなことまで知っているのかと疑問は感じるけど、周さんが言うなら、きっと間違いないんだろう。


信用していたのに裏切られたという気持ちはあるけど、沢村さんは部下に上手く言いくるめられたに違いない。まさか亮を捕まえるために探してるなんて、部下がストレートに言える訳ないだろうし。


お金で釣られているだけなら、亮を見たとだけ伝えたのだろうか。それとも一緒にいた私のことを、亮の彼女だと伝えているのだろうか。


「念のため、お前も気をつけた方がいい。亮と一緒にいるところを見られてるんだからな、わかったか?」


周さんのキツい口調は、私の不安を見透かしているように思えて、余計に胸が痛んだ。


私はなんて勝手なんだろう。亮のことを心配しながら、自分のことも心配している。情けなくて恥ずかしくて、顔を上げていられない。


「はい、わかりました。亮さんは大丈夫ですか? 怪我もしてたのに……どうして一緒に車に乗らなかったのかと思って……」


俯いたまま問い掛けた。
大丈夫だと言ってほしいと願いながら。


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