君の知らない空


「心配するな、子供じゃないんだから一人でも大丈夫だ、お前と一緒にいた方が厄介だ」


呆れたように周さんが笑う。


亮なら大丈夫だと言ってくれてることには安心できたけど、周さんの言い方は冷たい。きっと亮を信用しているからなのだろう。


それ以上に引っかかったのは、私と一緒にいた方が厄介って言われたこと。
一緒にいても周りの人たちから見たら、ただのカップルにしか見えないんじゃないの?


問い詰めたい気持ちが、喉元に絡まってモゴモゴしてる。
そんな気持ちを見透かすように周さんが言った。


「お前が、亮をかどわかすから注意して言ってるんだ」


笑みを含んだ軽い口調。だけど、言ってることは失礼で聞き捨てならない。


それに周さん、本当に中国人なの?
『かどわかす』なんて難しい言葉をよく知っていたものだ。実は周っていうのは偽名で、本当は日本人なんじゃないの?


「それ、どういう意味ですか? そんな言い方しなくてもいいでしょう? かどわかすなんて……」


納得できない気持ちが、語気を強めた。
少し驚いたのか周さんはちらっと私を振り向いて、口元に笑みを浮かべた。


「簡単なことだ、亮に近づくなって言ってるんだ。お前に危害が加わることのないようにするのは、あくまでも仕事だ。それ以上は何の関わりもないんだから、お前から亮に接触しなければいいだけだ。何も難しいことじゃないだろ」


適当にあしらうような嫌な言い方。私の方を全く見ないで話すところも気に入らないけど、運転中だから仕方ない。


私の反論など受け付けないと言いたげな澄ました横顔。それだけでも十分腹が立つのに、周さんはさらに付け加える。


「お前、亮が優しいと思ってるだろ? それは勘違いだからな、亮は本当は冷たいヤツだ。お前が見てる亮は、ほんの一部でしかないんだ。よく覚えておけ」


周さんこそ冷たい。
完全に私を突き放す口調だ。


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