君の知らない空


やっぱり周さんって、嫌な人かもしれない。不安を煽るわけではないけど、悪意とはまた違う感情が表れている。


亮に近づけまいとする態度から感じられるのは、私に対する嫌悪感。


「また、私を騙そうとしてるんですか?」


言い放つように問い掛けた。
周さんは無表情のまま、顔色ひとつも変えない。じっと睨んで答えを待っているのに、周さんはまるで余裕の表情で車を走らせる。


小さな交差点を曲がって住宅地の中をしばらく走ると、見覚えのある景色に気づいた。
私の家の近所だ。普段は通らない方向からだから、不覚にも気づくのが遅れたことが恥ずかしい。


私の家から一筋手前の通りで、周さんは車を停めた。エンジンは止めないで、ライトだけ消してハンドルから手を離す。


通りに沿って等間隔に並んだ街灯が、閑静な住宅地の先にある公園を浮かび上がらせる。いつも桂一が送迎してくれる時にあの公園の傍に車を停めているけど、その場所はここからでは見えない。


「ここからなら、ひとりで帰れるだろ? それとも怖いと言うなら、家の前までついて行ってやろうか?」


やっと口を開いたと思ったら、嫌な口ぶり。送ってくれる気なんて全然ないくせに。


「ついて来てもらわなくても結構です、ひとりで帰れますから。ありがとうございました」


とりあえず、適当にお礼だけは言っておこう。目を合わさないように周さんの首の辺りを見ながら言い終えて、すぐに目を逸らした。


シートベルトを外してドアに手を伸ばす私の頭の上から、周さんの言葉が降ってくる。


「お前が騙されたと思うなら、それでもいい。亮に何を言われたのか知らないが、お前から亮には近づかないでほしい」


ゆっくりとした穏やかな声に、さっきまでの嫌な感じはない。その豹変ぶりに驚いて、私は顔を上げた。



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