君の知らない空



私を見ている周さんの目に、感情の抑揚は感じられない。でも、僅かな寂しさと哀れみを帯びているように思えた。


それが何に対するものかはわからないけど、決して私に対する気持ちでないことは確かだ。亮に対する気持ちなのだろうか、それも違う気がする。


「どうして? って聞いても教えてくれないんですよね……でも、お礼ぐらいは言わせてもらえませんか? それもダメですか?」

「ダメだ、礼なんて要らない。お前に頼まれたわけじゃないんだから」


周さんは目を伏せて即答した。
唇を噛んでいるのは、感情的にならないように意識しているのだろうか。
これ以上聞くなと言いたげに、険しい顔をして窓の外へと目を向ける。


「だったら……亮さんが無事だということだけでも知らせてもらえませんか? 彼からの連絡じゃなくてもいいから、無事を確認したいんです。それぐらいならいいでしょう?」


きっと往生際が悪いと思っているのだろう。周さんは窓の外を見つめたまま、黙っている。どうしようかと、考えてくれているのかもしれない。


私はひたすら、周さんの答えを待った。
せめて、亮の安否を知りたいから。私は周さんに送ってもらえたけど、彼は無事に逃げることができたのか知らせてほしい。


亮の連絡先は聞いていないから、私から連絡することはできない。
でも、亮か周さんは私の携帯電話の番号を知っているかもしれない。今朝、私の会社や母に連絡してくれたのだから。


周さんが大きく息を吐いた。


「わかった、それぐらいならいいだろう。早く帰れ、こんな所に停めていたら怪しまれる」


振り向いた周さんの顔は、意外にも優しく見えた。


< 332 / 390 >

この作品をシェア

pagetop