君の知らない空


昼休みにゆっくり話を聞くと約束して、優美は席に戻っていった。その背中が疲れ切っている。


昨日、オバチャンは私の代わりに優美にいろいろと話したのだろう。すべてを知ったら、優美は迷いなく会社を辞めてしまうかもしれない。オバチャンも私も、知っている事はほんの一部だろうけど。


そういえば、美香の姿が見えない。
今日は遅いのかな……と気にしながら事務所を見渡していると、始業のチャイムが鳴り始めた。


それぞれの席に着くオバチャンたちが、ちらりと私の方を振り向く。野口さんはすぐに顔を背けたけど、山本さんは何か言いたげにじっと見てる。とりあえず軽く笑顔を見せて会釈したら、ふいっと目を逸らしてくれた。


ほっとして携帯電話を取り出す。いつの間にか、メールの着信がある。


差出人の名前ではなく、心当たりのないアドレスだ。不審に思いつつ、開いてみる。


『ハルミちゃん、おはよう。
今日はお仕事ですか?
亮は無事だから心配しないでね。
お仕事頑張ってね。
アキより』


冒頭を読んでピンときた。私をハルミと呼ぶのは、あの人しかいない。周さんがアキさんに連絡を頼んだのだろう。


胸で疼いていた痛みが和らいでいく。亮の無事が何よりも嬉しい。


携帯電話を握り締めて、大きく息を吐いた。


「高山さん」


突然、頭上で呼ばれて現実に引き戻される。体が跳ね上がるほど驚く私を、山本さんが冷ややかに見下ろしている。


「おはようございます」


「今からちょっといい? 会議室まで来てくれる?」


有無を言わせない口調で告げると、山本さんは野口さんを引き連れて事務所を出て行く。


私も慌てて席を立った。


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