君の知らない空



オバチャンの後に続いて会議室に入ったら、既に江藤が座っていた。軽く手を挙げて挨拶する江藤には、余裕すら感じられる。


「高山さん、早く座って。一昨日話してた件だけど、全員調べたわよ」


山本さんの言ってることが分からず、私は必死になって記憶を辿った。だって、オバチャンは真っ先に美香の名前を口にすると思い込んでいたから。


「ありがとうございます。どうでした? 怪しいところは見つかりました?」


江藤が身を乗り出すと、山本さんは目を輝かせて頷いた。よく聞いてくれたと言いたげな嬉しそうな顔。


「調達部長はT重工の関連会社のM社の設計部の出身、課長は違うらしいわよ。いくつか関連の人に聞いてみたけど、課長はどこにもいなかったわ」


そうだ、思い出した。
一昨日、会議室に呼び出された時に江藤が頼んだこと。最近入れ替わった社内の上層部の素性を、オバチャンが調べてくれると。


「やっぱり、会社も違ってるし、同じ設計部にいたというのは嘘だったんですね。他の方々は?」

「システム部長も総務部長も秘書課の課長も、みんなT重工とは関係ないみたい。関連会社の心当たりに聞いてみたけど、誰も知らないんですって」

「きっと来週辞めてく経理部長の後任も、どこの誰だか知らない人なんでしょうね」


山本さんが言い終えるのを待っていたかのように、野口さんは大きく頷いた。


「関連会社と全く関係ない人間が上層部に入り込み、会社を乗っ取ろうとしているということは明らかです。さて、これからどうします?」


どうする?と言いつつも、江藤の力強い口調からは何か策があるように感じられる。それは確かな自信だろう。


「江藤さんは、どうしたらいいと思ってるんですか?」


すぐに尋ねた。オバチャンは自分たちを差し置いてと思うかもしれないけど、尋ねなければと思ったから。



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