君の知らない空
すぐにオバチャンらと江藤が、何やら忙しく動き回る様子がわかった。あちこちの部署に足を運んで、これからのことを説明している。
私も一緒に行動したいと言ったけど、すぐさま江藤に却下された。
あまり動き回ると目立つからという理由だ。オバチャンらは普段から、あちこちに出向くことがあるから見慣れている。誰にも不審に思われることはないと。
行動は出来るだけ早い方がいい。
明日どうなるか分からないのだからと、その日のうちに江藤とオバチャンらは社内を巡ったらしい。
そして、あくまでも秘密裏に。
上層部には決して悟られぬように。
定時のチャイムが鳴る前に、リフレッシュコーナーに空き缶を捨てに行ったら江藤が居た。窓辺にもたれた江藤は私に気づいて、ひらひらと手を振ってくる。
「お疲れ様、手伝えなくてゴメンね」
「お疲れ、気にするな。何とかなりそうだ、もう帰るの?」
謝る私に返してくれた江藤の得意げな笑みは、もやもやした気持ちを一掃してくれそうに思える。
「うん、今日は約束があるから」
「そっかぁ……じゃあ、今晩電話してもいい? ちょっとだけ話したいことがあるんだ」
話って何だろう。
ここでは話せないことには違いない。
「うん、11時ぐらいなら起きてる?」
「お子様じゃないんだから起きてるよ、家に帰ったらメールしてよ、俺が掛け直すから」
リフレッシュコーナーを出ると同時に、定時を告げるチャイムが鳴り始めた。
事務所に急いで戻る私を見送る視線。恐る恐る振り向くと、オバチャンらが私を見ている。睨んでいる訳ではないけど、何とも言えない威圧感に背筋が伸びる。
「お疲れ様です」
「高山さん、足はもう治ったの?」
挨拶して素通りしようとしたら、呼び止められてしまった。しかも手招きなんかしてる……ついてない。