君の知らない空
「大月は知らないよ、馬鹿正直だから役に立たない。巻き込む気はないね。綾瀬さんが買収した人に親子喧嘩の話をしたら、すぐに造反を持ち掛けてくれたよ。綾瀬さんと父親を突き落としてやろうって」
真っ先に浮かんだのは課長だった。他にも社内には造反した人間がいるのかもしれないけど。
綾瀬は父親の部下を買収したのに、その部下が裏切った。簡単に買収されるような人は、裏切るのも簡単なんだろう。
「綾瀬さんをどうするの? 美香には危害を加えないで、美香は関係ない」
「どうしようなあ? 妹はヤツらを雇って俺らを探ってたからな、それを綾瀬さんは父親の刺客だと、上手く勘違いしてくれてたけど」
綾瀬は恐れていたんだ。
自分が父親を憎んで狙うように、父親も自分を狙っていると。美香は密かに、兄を守ろうとしていた。
「何が目的なの? 会社の乗っ取りに加わること?」
「乗っ取りなんて興味ない。綾瀬さんや父親から、金さえ手に入ればいい。ヤツは片付けておくつもりだけどな」
なんて短絡的なんだろう。
こんな先輩のために、美香や亮が危険な目に遭うなんて絶対に許せない。
私は立ちはだかる先輩に、思いきり体当たりした。不意をつかれてよろめく先輩の傍を潜り抜けて、玄関へと走る。
「待て!」
先輩の怒声が私を追いかける。
扉を勢いよく開けたら体格のいい男性が二人、立ち塞がっている。すり抜けようとする私の腕を掴んで、いとも簡単に取り押さえた彼らの力は想像を絶するものだった。
こんな人と接触したら、亮は上手くかわせるのだろうか。嫌な不安が過る。
「逃げるなよ、ヤツに助けに来てもらうんだろ?」
私はあえなく部屋に連れ戻されて、両手足を結束バンドで縛られた。