君の知らない空
「美香は社内のおばさんに、 ずいぶんイジメられてるらしいね。それでも美香は負けないと言っていたよ。ああ見えても芯が強いからね」
何を言い出すのかと思ったら、美香はオバチャンの事も綾瀬に話しているらしい。確かに美香は強いと思う。オバチャンに屈するなら、とっくに辞めているはずだ。
それに社内の闇を探るために入社するなんて、私にはできない。そんな勇気は出せる気がしない。
「私も美香さんは強いと思います。それにお兄さんの事、とても大切に思っているのが伝わってきて羨ましいです」
「美香は俺にとって、妹以上の存在だ」
綾瀬は目を細めた。
ただならぬ綾瀬の気持ちを覗き見てしまったようで、ドキッとする。
照れ臭そうな顔を逸らして、綾瀬は窮屈そうに体を捩らせた。後ろ手にされているからか、体を起こすことさえ難しいらしい。悔しげに舌打ちをして、溜め息を吐く。
そう言えば綾瀬の傍には、いつも厳めしい男らがいた。桂一は彼らを綾瀬のボディガードだと言い、先輩は側近だと言っていた。
彼らはどうしたんだろう?
彼らが守っていたなら、綾瀬がこんなに簡単に捕まるはずないのに。