君の知らない空


綾瀬は、きっと亮の事を言っている。勘違いしても無理はない。綾瀬は亮が自分を狙っていると思っているのだ。亮が拉致したと考えるのが自然だろう。


でも今ここで私が否定したら、綾瀬は私を追及するはずだ。亮の行方を教えるようにと。


そんなこと、怖くて言えない。まずは、ここを無事に出ることを優先しなければ。


「何か切るモノを持ってないか?」

「え? ちょっと待ってください」


ふいに問い掛けられて、私は慌てて部屋を見回した。目に留まったのは、台所の流し台の前の壁にぶら下がった大小二種のフライパンとハサミ。


急いでにじり寄り、流し台に持たれかかりながら立ち上がった。縛られた手を伸ばすと、意外と簡単に届いた。


ハサミを手に綾瀬の元へと急ぐ。


「後ろ向いてください」


ぴんと張った結束バンドにハサミを潜り込ませるのは難しい。縛られた両手ではハサミが握りづらいし。


「手を切らないでくれよ」


私に両手を預けた綾瀬が、心配そうに振り向く。そんな事言われたら、余計に焦るじゃない。


「わかってます」


イライラし始めた頃、ようやくぷっつりと切れた。


「よし、貸してみろ」


両手が自由になった綾瀬はハサミを取り上げて、自分の両足と私の両手足の結束バンドを手際良く切った。


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