君の知らない空
二人の間に流れる不穏な空気に、私は堪らず顔を背けた。桂一は、ゆっくりと私たちの方へと歩み寄ってくる。
「橙子、怪我はない? 危ない目に遭わせて、ごめん」
桂一は足を止め、頭を垂れた。それ以上言葉が出ないのか、俯いたまま口を噤んで、私の手を握った亮の手ををじっと見ている。
「ありがとう。桂も大丈夫? どこにいたの?」
「この近くの倉庫で、先輩に監禁されてた、綾瀬さんのボディガードと一緒に。さっき窓から出て行った男が助けてくれた。彼がここに連れてきてくれたんだ」
穏やかな口調で経緯を語った桂一は、いきなり亮の腕を掴んだ。
「その手を離してくれないか、それとも、力尽くでなければ離れない?」
亮に迫る桂一は、いつもの穏やかな桂一じゃなかった。喧嘩など無縁のはずなの、桂一の言動が怖い。
「やってみる? 力尽くで離せるか」
亮が涼しい顔で返すと、桂一は亮の胸倉を掴んだ。きっと睨んだ桂一は歯を食いしばり、いつ殴り掛かってもおかしくない。
「桂、やめて」
止めに入ろうとする私を、亮の腕が庇ってる。でも私は何としても止めたくて、桂一の右腕を掴んだ。絶対に、手を出させてはいけない。