君の知らない空


「あの時、お前を捕まえてたら……何か変わったのかな」


ゆっくりと桂一が腕を離す。諦めたように吐き出された声。ちらりと見た桂一の寂しげな笑みが、私の胸を貫く。


亮が静かに目を伏せた。


「今まで捕まらなかったこと、あなたが見逃してくれたことに、僕は感謝してる」

「見逃したんじゃない、お前に逃げられたんだ」


笑って背を向ける桂一の背中越しに、兄の綾瀬と部下たちが部屋を出て行くのが見えた。美香と父親の綾瀬が、黙って彼らを見送っている。


美香は私たちを振り返り、肩を竦めた。


「兄を説得するには時間が掛かりそうです。でも、きっとわかってくれると思います」


父の綾瀬も大きく息を吐いて、頭を垂れた。親子間の確執は、想像以上に根深いものらしい。


少し離れた所で、江藤が心配そうに私たちを窺っている。彼に父の綾瀬が手招きをした。


「会社のことだが、私の計画は失敗だ。反逆者の処分は菅野に任せるが、私の部下は引き揚げさせるつもりだ。君の計画は今後どうする?」


穏やかに話す綾瀬は、江藤が乗っ取りに対する策を講じようとしていたことを知っていたような口振り。江藤は上層部に悟られぬように注意していたはずなのに、正直驚いた。

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