君の知らない空



とある土曜日、私は霞駅に降り立った。目指すは市民病院。


春はそこまで来ているとはいえ、まだ日影は肌寒くて風は冷たい。のんびりと市民病院へと続く緩やかな上り坂を歩いていく。


市民病院の入院棟、4人部屋の病室の入り口に掲げられた名札を確認する。


『山住知花』


「橙子ちゃん、来てくれてありがとう」


満面の笑みで迎えてくれた知花さんは、2月の出産予定日が延びて3月の初めに出産した。二人目は女の子、産み分け成功だと誇らしげに話してくれる。


「会社、大変だったんだね……まぁ、辞めるのは簡単だからさ、続けられるだけ続けてみるべきだと思うよ」

「はい、もう少し頑張ってみます」


知花さんの言葉はさっぱりしてるけど、背中を押してくれるから好き。


「そういえば、彼氏とは順調? 出張に来てた彼」


知花さんの言う彼氏は、もちろん亮のこと。従兄だなんて思ってなかったようだ。


「はい、順調です」

笑って返したけど、顔が熱くて恥ずかしい。目を伏せたら、知花さんが肩をぽんと叩いてくれた。



< 379 / 390 >

この作品をシェア

pagetop