君の知らない空
清々しい顔をした沢村さんが、手を振りながらジムへと駆けていく。沢村さんを脅したのは、実は私の知り合いだと話したら安心してくれた。
沢村さんを見送った私は、カップを口に運んだ。ちょうど視界の端、肩越しに影が映り込む。
「見つけた」
私の顔を覗き込んだのは、思ったとおり亮だ。
「見つけたじゃなくて、本当はずっと前から見てたでしょ? 沢村さんと話してるところも全部」
「気づいてた?」
亮はくすりと笑う。
あれから、亮も私もジムには行っていない。さっきも沢村さんは、いつでも来てくださいねと言ってくれたけど、亮は沢村さんに密告されたことを多少気にしているようだ。
「どこに行く?」
尋ねると、亮は考えるまでもなく答えた。
「アイスクリーム食べに行こう」
亮は、するりと私の手を握り締めた。
こうして手を握っていても、たまに落ち着かないと感じることがある。握り締めた亮の手の微妙な力加減から、伝わってくる僅かな不安。
堂々としているようで、本当は亮も怖いと思うことがあるようだ。強く握り返すと、亮は手に力を込めて返してくれる。そうしたら、不安は消えていく。
ショッピングモールに来たら、必ずアイスクリーム屋さんに寄る。店頭に並んだショーケースを眺めるまでもなく、亮は私の分まで注文してしまう。
最近嵌っているのは、ビターチョコレートの中にオレンジのマーマレードがたっぷり練り込まれた限定フレーバー。
「これ、本当に美味しいよ」
スプーンを咥えて無邪気な笑顔を見せてくれる亮は、チョコレート系のフレーバーが好き。