君の知らない空


どうして、こんなに美味しそうに食べるんだろう。アイスクリームを食べる亮の顔に見惚れてしまう。


ぺろりと食べ終えて、満足げな顔。


「そういえば、知花さんの赤ちゃん、可愛かった?」

「うん、すっごく可愛かった。やっぱり女の子だったみたい、名前は考え中だって」

「よかった、いいなぁ……赤ちゃん」


亮が目を細める。


他意は無いのかもしれないけど、ドキッとする発言。期待を込めてしまっている自分が恥ずかしい。


アイスクリーム屋さんに来るたび、亮は知花さんのお腹を気にしていたから……と言い聞かせて心を鎮める。


「知花さんが退院して落ち着いたら、一緒に会いに行こうよ」

「行きたい、でも、橙子はいいけど……僕が行ったら、ビックリしないかなぁ?」


臆病な言葉を零して、亮は頬杖をついた。


「大丈夫だよ、全然知らない人じゃないんだから、喜んで迎えてくれるよ」


さっきまでの嬉しそうな表情が消えてしまうんじゃないかと、心配になって亮の顔を覗き込む。


すると突然、亮が顔を上げた。
素早く伸ばされた片手が、私の後頭部を支えて引き寄せる。抵抗のつもりで構えた手は、あえなく抑えられて唇を塞がれた。


また、ヤられた……
息ができないほど、チョコレートの香りに満ちていく。


こんな時間に、こんな所で……
周りの人が気になって、目を閉じてる場合じゃない。


蕩けそうになる寸前、ようやく解放された。チョコレートの余韻と名残惜しさに口を噤むと、亮が得意げに笑う。


「続きは今晩ね」


完全に亮のペースに巻き込まれてしまってる。



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