君の知らない空


夕霧駅から北へ歩いて約10分、静かな住宅地の中にあるアパートの一室に、亮はひとりで住んでいる。以前住んでた駅前の商店街の路地裏にあるアパートは引き払った。


実は私の家から結構近い。私の家は亮のアパートから、道路を一筋入った住宅地の中にあるから。


ちなみに周さんは、今も霞駅の近くに住んでいる。霞駅の利便性は譲れないと言っているのだとか。


部屋の隅に置かれたスタンドライトの灯りが、私たちを淡いオレンジ色に染めていた。


ぼんやりとした視界に浮かび上がる亮の逞しい胸筋が、横たえられた私の体に沈んでいく。亮の指と唇に優しく触れられるたびに体の芯が弾けて、堪らず声が漏れた。


今夜の亮はいつもと違う。


体を捩らせることさえできないほど、亮の体が強く圧し掛かってる。まるでベッドに縛り付けられてるみたいに、逃れられないほど強く。


いっそ蕩けてしまいたいのに、それさえ許してくれない。


息苦しさと心地よさに顔を反らすのが精一杯。それでも触れ合う肌の温もりが、こんなにも愛おしいなんて。


伸ばした指先に、亮の髪が絡みつく。
しっとりとした肌に触れた瞬間、私の中で大きく弾ける感覚。頭の中が真っ白になる。


重なり合う私たちの鼓動が、今にも遠退きそうな意識をしっかりと繋ぎ止めてる。耳元に亮の息遣いを感じながら、ゆっくり瞼を閉じた。ずっとこのままでいたいと願いながら。



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