君の知らない空
伝い落ちる雫を、亮が指先で拭ってくれる。目を開けたら、亮の穏やかな笑顔。
「橙子、ありがとう」
優しく髪を撫でつけて、亮が何度も唇を重ねてくれる。
何故だろう、涙が止まらない。
緩やかな時間が流れてく。
このまま帰りたくないと思ってしまうけど、そういう訳にはいかない。刻々と過ぎてく安らぎの時を惜しむように、私たちは何度も抱き合った。
「ねえ、橙子、聞いてくれる?」
と言って、亮は一枚の写真を見せてくれた。手渡された写真には、仲睦まじく寄り添って微笑む若い男女の姿。
「僕の父と母の若い頃、僕が生まれるより前の。母と橙子、すごく似ていると思わない?」
確かに亮の言うように、女性の顔が何となく自分に似ている気がする。でも私の両親や親戚に、中国人の男性と結婚した人はいない。