君の知らない空


「お母さんの方がずっと綺麗だよ」

「そんなことない、橙子を初めて見た時、本当に驚いたんだ。マザコンだと思われるかもしれないけど」


恥ずかしそうな笑みを浮かべて、亮が私に唇を重ねる。亮の精一杯の照れ隠し。そんな亮が可愛い。


「お父さんとお母さんは、今どうしてるの?」

「わからない。父がこっちに留学した時に、学生だった母と出会ったと聞いたよ。二人は結婚して、父の仕事の関係で中国に移り住んだ。それから僕が生まれた」


亮が自分の事を話すのは初めてのこと。いつか聞いてみたいと思っていたから、私は黙って耳を傾けた。


「父の仕事が忙しくなって家に帰らない日が増えて、母は病気になって、ひとりで帰国してしまったんだ」


亮は取り残されたんだ。
どうして亮の母は亮を一緒に連れて行かなかったのかと、責めたい気持ちと疑問が込み上げてくる。だけど、きっと一番辛いのは亮だろう。


「亮はお母さんに会うために来たの?」

「それも理由のひとつ、母が生まれ育って父と出会った国を見たかった。でも、もういいんだ。橙子に会えたから」


亮は柔らかに微笑んだ。



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