君の知らない空
今にも零れ落ちそうなほどの星を湛えた空の下、亮と手を繋いで歩いてる。
夜道は心配だからと、いつも亮は家の近くまで送ってくれる。私の家までは歩いて5分掛からないほどの距離なのに、亮は意外と心配性だ。
公園の傍に差し掛かってきたところで、ゆるりと夜空を見上げる。
言葉にできない幸せが、胸いっぱいに満ちていく。こうして亮と並んで、星空を見上げることができるなんて。
ひやりとした風が、頬を掠めながら通り過ぎていった。寒さに縮こまりそうな私を、亮がぐいと引き寄せる。
「不思議だね、こうして橙子と同じ空を見上げてるなんて。今まで全然違う空を見ていたのに」
感慨深げに零して、亮が頬を押し付けた。冷たいのに触れているうちに、じんと温もりが染み込んできて気持ちいい。
「私も、亮と話が出来るなんて思いもしなかった。亮を初めて見たのは商店街、自転車に乗ってすれ違った時のこと、まだ覚えてるよ」
蒸し暑い夜の商店街を颯爽と自転車に乗った亮の姿、亮が纏った芳しい風の匂いまで、今でも鮮明に蘇る。
「あの時、僕も初めて橙子を見たんだ。懐かしいなあ……」
「覚えてるの? 亮は知らん顔だったのに?」
「初対面で声を掛けたらビックリするだろ? それに仕事だったから、舜に怒られる」
亮は肩を竦める。
あの頃から亮と周さんは、菅野さんに雇われていたんだと改めて思った。思い返すと、潜んでいた恐怖が顔を覗かせそうになる。
「菅野さんが新しい仕事を紹介してくれたんだ、また舜も一緒だよ、来週から頑張ってくる」
亮の言葉に、思わず息を止めた。
菅野イコール危ない仕事と思い込んでる私は、何と返したらいいのかわからず顔が強張ってしまう。