君の知らない空



いつの間か、風は止んでいた。


仄暗い街灯の灯りに映し出された彼は、穏やかな目をしている。曇りのない優しい目で見つめられるだけで、心の波が鎮まっていくように感じる。


「今度は、もっと違う形で橙子を守りたいんだ。一人前の男として認めてもらえるように頑張るから、待ってて」


亮の声が、胸に染みていく。
じんわりと込み上げてくる温もりが、今にも堰を切って溢れ出そうとしてる。


私は、この言葉を待っていたのかもしれない。


「待ってるよ、ずっと」


声に出したら堪えきれなくなって、慌てて空を見上げた。あれほど輝いていたはずの星たちが滲んでいく。


ついに頬を流れ落ちる涙を、亮の指先が受け止めてくれた。


「いつか、僕の生まれた国へ行ってみようよ。今度は僕が、橙子の知らない空を見せてあげたい」

「うん、連れて行って。亮の見ていた空を教えて」


私たちは、空を仰いだ。


亮と同じ空を見上げることのできる幸せを感じながら、固く手を握り締めて。




ー完ー


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