君の知らない空
「橙子、気を悪くしないでね、
ゆっくりでいいから前に進もうよ」
「うん、進もうとしてるんだけどね、
出会いって無いものだよ?」
と言った私の脳裏に浮かんだのは、
自転車に乗ったあの人。
涼しげな姿を思い出したら、
頬が熱くなってきた。
「あれ? 橙子?
ホントは誰かいるの?」
気づいた優美がにやりと笑って、
顔を覗き込んでくる。
「ん?
いないよ、いるわけないって……
居たらもう行動に移してるよ」
答えたものの、自信はなかった。
またあの人に会えたら、
私は本当に行動に移せるのだろうか。
いつまでも、過去に拘ってばかりではいけないとは分かってる。
桂一だって新しい就職先を決めて、前に進もうとしているんだから。
私も前に進まなきゃ。