君の知らない空
◇ 動き出す心
けたたましく競い鳴く蝉の声が、耳鳴りのように響いてくる。閉めきった窓に映る日差しは、カーテン越しにも肌に突き刺さるように痛い。
枕元の携帯電話を見たら、10時を過ぎている。「寝過ぎだろ」と自分でツッコミを入れて、思いきり伸びをした。
「おはよう、よく寝てたわね。
平日だったら遅刻よ?」
リビングに入ると、ソファーにもたれ掛かっていた母が呆れた顔で振り返る。
テレビを観ながら寛いでいたようだ。
「いいの、土曜日だから」
ぼんやり答えて、私は洗面所へ向かった。体がだるいのは、寝過ぎたせいに違いない。
土曜日か……
特に予定はない。
二つ隣の霞駅にあるショッピングモールにでも、ぶらりと涼みに行こうか。
そこは今週初めに人身事故があった駅だが、誰もそんなことなど忘れて気にしない。もちろん私も。