君の知らない空
彼だ!
あの日見た自転車に乗った彼が、目の前の店へと入っていく。
目深に被った黒いキャップから覗いた焦げ茶色の髪、眼鏡を掛けた柔らかな顔は彼に間違いない。
店内に入り、ゆっくりと商品を見回す彼を私は目で追っていた。自転車に乗っていた時には気づかなかったが、彼は意外と背が高い。桂一よりも高いだろう。
誰かと一緒なのかもしれない。
と気づいて、慌てて彼の周りにそれらしい人の姿を探してみたが、誰もいない。
もしかして、ヒトリ……?
胸のざわめきが規則正しく刻まれる高鳴りへと変わり、胸の中で響いている。
いつしか私は誘われるように、店の中へと入っていった。