君の知らない空
知花さんは店内に入ってきて、私の隣に座った。
「知花さん、今帰りですか?」
「うん、今日は早出だったからね、
橙子ちゃんはひとり? もう帰ったと思ってたよ」
「はい、家に居ても暑いから涼もうと思って……ぶらぶらしてたら歩き疲れたんで休んでたんです」
「だよねー、家は暑いもん。でも、会えてよかったよ」
と知花さんは笑って、オレンジジュースをごくごく飲んだ。
「彼方くんは実家ですか?」
彼方くんとは知花さんの6歳の息子だ。
「そう、旦那と一緒に私の実家で涼んでる。おじいちゃんとおばあちゃんが彼方と遊んでくれるから、旦那的には楽チンなのよ」
「ご飯もおやつも用意しなくてもいいから、それがいいですね。
いっそのこと、同居したら知花さんも楽チンじゃないですか?」
訊ねると、知花さんは頷いた。
何か言いたげな口元に、私は注目する。